芦屋に故小田実さんの人生の同行者、玄順恵さんを訪ねた。
新大阪から芦屋に向かう車窓から桜をあちこちで目にした。
芦屋駅からタクシーに乗り、海の方へ向かう。震災で多くの建物が倒れたという街を走る。車で通り過ぎるだけでは傷跡には気づかない。
道の行き詰まりで車を降り、エレベーターに乗って最上階でドアが開くと、磯の香が飛び込んできた。
ぼくがインドによく行っている話になって、聖者とともにいると至福に包まれるという体験談のあとに、小田さんは悟っていたと思うと言ったら、玄さんも「そうよ」と答えた。わかる人にしかわからないけどと続けて、笑った。
ぼくも小田さんは悟っているといろんな人に話したが、
よい反応が返ってきたのははじめてだったのでうれしかった(笑)。
小田さんの作品は、小説、評論合わせて200作位、対談などを含めると300作品ほどになる。電子書籍として小田実全集を出していくことになる。
少しでも多くの人が小田さんの作品に触れてもらえるとよいな。ぼくも読んでない作品が圧倒的に多いので読むのが楽しみだ。
辞する前に、小田さんの笑っている写真が飾られている応接間の窓に近づくと、夕日を受けて金色に輝く穏やかな瀬戸内海を、二艘のヨットが港へと静かに帰路についていた。玄さんと娘のならさんに見送られて玄関から外に出ると山の姿と塩の香が飛び込んできた。
タクシーの中で全集の編集作業を手伝ってくださるという小田さんと40年以上付き合いがあるという古藤さんにディクシャを受けてもらった。