このブログでも繰り返し語ってきた現在の貨幣制度が、いまの社会を見えない形で支配し、その結果、バブル、不況、失業、経済格差、赤字財政、そして戦争や環境破壊まで起こしている根本原因だという理解が、今、世界中で広がってきている。
現在の貨幣制度がなぜ問題を起こしてしまうのか
実際にどのような問題を起こしてきたのか
どのようにして通貨制度が極めて少数の人間に世界を支配できる力を与えるのか
そして
それに代わる貨幣制度はあるのか
そして
それはどのようにして可能なのか
これらの問いにわかりやすくまた体系的に答えている素晴らしい本がある。
山口薫『公共貨幣』
https://www.amazon.co.jp/dp/B01532FV30/
貨幣制度をめぐる政治的な熾烈な闘争などの歴史的事実も丹念に調べられており、社会のOSである貨幣制度が、世界大恐慌や戦争、リーマンショックなどを起こし、いまも爆発寸前の時限爆弾を抱えている欠陥だらけの危険な代物であることがよく理解できる。
制度的欠陥の仕組みと歴史を解明した上で、山口薫さんは「公共貨幣」という新しい貨幣制度を提案している。
簡単に説明すれば、現在の貨幣制度(山口さんはこれを債務貨幣システムと名付ける)では、例えば日本で流通している円の84%は、銀行がだれかに対して貸し付けることによって生まれたものである。
銀行はバランスシートの資産の側に貸し付け金額を書き、貸し付けた相手の預金講口座にその金額を書き込み、バランスシート上の負債とするだけである。銀行は無からお金をこうやって作り出す。
「信用創造」という銀行にだけ与えられた人類史上最大の利権である。
しかも銀行は、無からコスト0で作ったお金に利子をつけて貸し出す。
さらに銀行以外は、銀行のようにお金を作れないので、社会全体として銀行への利子返済が絶対にできない。
利子返済用のお金も、銀行以外は作れないから。銀行以外のだれかがお金を作ったら、それは偽札で犯罪になってしまう。
返せない利子を巡ってだれかが犠牲になるか、だれかがさらなる借金をしてお金を増やすしかない。
しかしお金を作るともれなく利子がつく。
さらにだれかが犠牲になる。
こうやって国の借金も1000兆円まで膨らみ、今後も雪だるま式に増えるしかない。
なんと民間銀行はお金を作れるが、国はお金が作れない。国も日銀や銀行からお金を借りるしかないからだ。
誰かが借金をするとお金が生まれ流ということは、銀行にだれかが借金を返済するとその分のお金が消えてしまうということでもある。
これがバブルの発生とバブルの崩壊という繰り返されるパターンである。
さらに利子によって、お金を持っている人のお金は自然に増えて、お金も借りている人は借金が自然に増えていく。
働けど働けど我が暮らし楽にならず じっと手を見るという形で富がどんどん移動して格差は広がる。
こうやって銀行がお金を通じて社会全体を支配する。しかも株式会社という方式で、企業の経営権もお金で支配できる。
これがいまの貨幣制度である。よくできてるなあと感心してしまうぐらい、あっぱれである。
山口薫さんが提案している『公共貨幣』は、銀行がお金を作るという制度をやめて、国がお金を作る制度だ。
実はこれと同じ発想の提案を世界恐慌後にアメリカで、当時のアメリカ経済学会会長であるアーヴィンフィーシャーもルーズベルト大統領に提案していた。そのあたりのことも本書で詳しく書かれている。
日本銀行という公の期間がお金を作っているのではとみんななんとなく思っているが、実は日本銀行は株式会社で政府は55%しか株を持っていない。
アメリアの中央銀行であるFRBは100%民間銀行資本である。
そこで日本銀行を一度解体し、完全に公的な機関として再編する。
いま日本で流通している84%は民間銀行が「信用創造」で作り出したお金であるが、民間銀行は「信用創造」をできないようにする。
民間銀行が貸し出せるお金は預金者から集めた預金だけとする。
そして日銀に代わる公的な機関が100%情報公開のもとでインフレやデフレ、バブルや不況にならないように経済の実態を見極めながら、「公共貨幣」の発行量を決めて、流通させる。
現在の国の借金、国債もこの「公共貨幣」で買い戻す。
この方法によってインフレはデフレ、あるいは不況やバブルにもならず国の借金を返済できる。
消費増税する必要はない。そもそも現在の国の借金は消費増税をしても返済できない額になっていて、いまの財政健全化のための消費税増税という議論はまやかしにすぎない。余談であるが。
債務貨幣システムから「公共貨幣システム」に移行しても外に悪い影響を与えることはないので他国からの内政干渉を受ける危険性もない。
唯一の問題点は、現在の債務貨幣制度という人類最大の利権を銀行が手放すかどうかというところにかかっているが、山口さんは銀行に対しても新しい役割を提案する。
銀行は信用創造という利権を手放すが、その利権に不可避的についてまわる不安定さからは解放される。決済口座の手数料とともに、預かった預金を元に新しい事業に投資するという本来の銀行業務として期待されている創造的な役割を担うことになる。
日本でも少なからずの人がこの貨幣制度を問題視し、論していたが、こ
問題に正面から向かいあっている日本の経済学者に初めて出会った。
その人こそが山口薫さんであり、この素晴らしい本だ。
定価3800円と高価な本だが、現在の社会の問題が気になる人、これからどうすればよい社会ができるのかと考えている人には必読の書である。
山口薫さんのこの本によって問題点と解決策は明確になった。
あとは
1. 多くの人のフィードバックによってさらに「公共貨幣」をよりよいものにする作業
2.問題点「債務貨幣」と解決策「公共貨幣」をできるだけ多くの人が知り、政治的課題とする作業
この2点に集中すればよいだろう。
1について、いまの時点では
*公共貨幣でベーシックインカムを配布するプラン
*公共貨幣を国だけではなく地方自治体が公共地方貨幣を作るプラン
*ピークオイルによる使えるエネルギーの総量が減ってきていることへの対応策
そして他の人が指摘していてなるほどそうだと思った
*公共貨幣の発行量と国、自治体の予算額、集める税金の額との関係
この4点に対して山口さんの考えを聞いてみたいと思っている。
いずれにせよ、いまの世界全体が抱えている問題の根本原因と解決策は明確に定義された。
新しい方向は決まった。
新しい時代を切り開く記念碑的な本である。
マルクスの「共産党宣言」以上のインパクトだと思う。
マルクスも貨幣制度に経済問題の根本原因があることを見抜けなかった。
それぐらい貨幣制度のからくりは250年ほど巧妙に隠されてきたのだ。
この本を教えてくれたタカさんにも感謝。
そして最後におまけ。
著者の山口さんは、アメリカで経済学とシステムダイナミクスを学んだ学者だが、ヨガの叡智を求めてインド中を旅し、ガンジス川の源流のあるヒマラヤの山奥で聖者とともに瞑想をした求道者であることも本書の中で知って、さらに嬉しくなったことも付け加えておきます。
合掌
LOVE&PEACE