「物質主義がこれほどの害をなすのは、私たち人類を駆り立てる一次的動因である共感と言う本質をそれが奪うからだ。進化生物学や神経科学の進展により明らかになってきたのだが、私たちが過去数百年にわたって教えられてきた人間像は、真の人間の本性とは異なる。啓蒙主義の哲学者たちは、近代の幕開けに際して、理性的、利己的、物質主義的、功利主義的で、自主の欲求につき動かされるものとしての人間の本性を描いた。これらはどれも、より多くの財産を築き、完全に自立した存在になるよう私たちを仕向ける。ところが、新しい科学的研究が物語るのは別の話だ。人間は最も社会性の強い生物だと言う。私たちは親交に飢え、社会に根を下ろすことを切望する。社交性の大部分は、私たちの神経回路に強固に組み込まれているわけではなく、文化の影響により育まれることも、失われることもある。
広告は、財産こそ人間を測る物差しであると言う見方を巧みに利用し、世の中で各自のアイデンティティーを確立するために必須のものとして製品やサービスを売り付ける。20世紀の大半を通じて広告は、財産は所有者の人格の延長であると言う見解を喧伝して、私たちの心の奥底に入り込み、何世代もの人々を次々に物質主義的文化に誘導してきた。
共感性に乏しい人ほど物質主義的である傾向が強い。」